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旅芸人の記録 Comments (3)
第二次世界大戦をはさんでの小国ギリシャの悲哀を描いた作品で、ナチスドイツ、ソ連、アメリカ、イタリア、イギリスなど大国に翻弄されるギリシャの人々の運命を、旅芸人の一座の視点で描いています。バルカン(っていったらギリシャの人は怒るのかもしれないですけど)半島の持つ運命っていうことで言えば、最近観たエミール・クストリッツァの『アンダーグラウンド』を想起させられましたが、そちらがユーゴという禍々しさに溢れているのだとしたら、こちらギリシャは重々しさに溢れている、そんな気がしました。
アンゲロプロスの画力が圧倒的で、観ていて疲れるほどに美しいです。彼の映画でたびたび出てくる、黒い傘、舗装されていない道路の泥濘、そこを心もとない靴で歩く人、ギリシャという国をじっと見つめ続けることで悲哀をまとって歪に曲がってしまったかのような樹木、これらが印象的でした。
決して楽しい映画ではありません。でも、やっぱり本物の悲しさに触れられる映画でした。
1939年から1952年まで、軍事独裁政権下のギリシャの歴史を、旅芸人一座の眼を通して描いた素晴らしい映像の作品。ドイツによる占領、イギリス軍駐留と傀儡政権、内戦、アメリカの露骨な政治介入。旅芸人達は一貫して政府に弾圧され蹂躙される。舞台で殺され、投獄され、凌辱され、拷問され、殺される。それでも芝居を続けてゆく。
苛烈な獄中の拷問を瀕死で生き延びた芸人が振り絞った言葉に深く共感した。「傷だらけの自由に希望を持て!」
この映画が撮られた74年当時も、独裁制下で思想を自由に表現できる時代では無かった。アンゲロプロス監督はそこにかつて軍事独裁政権に右翼政権が取って代わった52年と同じ臭いを嗅ぎとり、その歴史を描くことで、パラレルに74年当時の“今”を批判したのだ。