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チャイニーズ・ブッキーを殺した男 Comments (4)
ベン・ギャザラ演じるコズモはストリップクラブのオーナーであり、演出家でもある。場末の水商売だが、自分のクラブとその従業員を常に気にかけている。お世辞にも客を魅了するショーとは言えないが、これにたずさわるストリッパーの女たちや「伊達おとこ」、バーテンを彼は家族のように愛している。
そんなコズモがやくざにまんまとはめられて、全財産を失うか、そのやくざと敵対するボスを殺すかの選択を迫られることに。
出だしではただのストリップ経営者とばかり思っていたコズモが、冷静沈着に敵ボスを葬り去り、手負いの状態で何とかストリッパーの一人の家に逃げ込む。
ここまででコズモがただ者ではないことがなんとなく観客には分かってくるのだが、ついにやくざに連行されてしまってからの彼は、すでにその落ち着きと度胸でやくざたちを凌駕してさえいるのだ。男の風格に満ち溢れ、それはゴルゴ13や高倉健もかすむほどである。
そんなコズモと堂々と殴り合ったことのあるやくざの一人は、コズモに感じ入ったあまり組織の命令に背いてしまう。
やくざたちを返り討ちにしたコズモはクラブへ戻り、わき腹からの出血にもかかわらず、スタッフへの愛情を込めて最後のショーのMCを務める。
仕事と部下をこれまで愛する男はなかなかいない。こんな男がいたら、惚れてもいいと思わせるものを、ジョン・カサベテスが積み上げた。彼の人物造形が最高の作品。
それにしても、けがをして逃げ込んだ黒人ストリッパーの部屋に「リアリティ・バイツ」のポスターが貼ってあった。スクリーンンに漂う雰囲気からこの「チャイニーズ~」が70~80年代の映画だと思いこんで観ていたのだが、「リアリティ~」より後に撮られたものだと分かって驚いた。このように撮影時期をそれとなく観客に伝える以外に、何か意図があって「リアリティ~」のポスターを小道具に使用したのだろうか。このことだけが頭に引っかかる。そのほかはコズモの漢気にやられっぱなしであった。
ギャング物かと思いきや、イメージしていたようなドンパチがある訳でも無く、核となる場面を間に挟み、後は淡々と地味に進む印象はあるが、全体的に雰囲気が好みで渋い。
面白味がイマイチ解らないショーや、意味が無いように映るシーンも含めてカサヴェテスの長回しが、観ていてクセになってくる。
騙し討ちにする組織や"チャイニーズ・ブッキー"含めたギャングに主人公の"コズモ"と背景が解らないまま、最後まで不穏な空気を醸し出す残り香が!?
パッと見はカッコ悪いが、自分の美学を貫き通す生きざまは、惚れ惚れするほどカッコいい。
時代遅れの生き方かもしれないが、こんな風に生きたいと思うし、こんな人が報われてほしいと思う。
映画の作りとしては、説明が極端に少なかったり、意味がわからない長回しがあったりと一筋縄じゃいかない作りになっているが、登場人物の表情や仕草などから読み取る言葉にならない感情の方に重点がおかれていてとても良かった。